まず初めに、この度大変名誉ある公益財団法人痛風財団の平成28年度「田辺三菱賞」の受賞に関しまして、選考の労をお取り頂きました、財団関係者の方々に深くお礼を申し上げます。有難うございました。今回の受賞は私にとって2度目となります。前回は平成17年度田辺賞を「腎臓近位尿細管管腔側膜の尿酸トランスポーター分子同定と細胞内PDZタンパク質による尿酸輸送の分子機構の解明」と題するテーマで頂いており、それに次いでの受賞となります。
前回受賞時にも記載させて頂きましたが、10年の時が経っておりますので、ここで再度自己紹介をさせて頂きます。私は平成2年に千葉大学医学部を卒業し、第一内科(現在の消化器内科と腎臓内科の両教室の母体)に入局し、千葉大学名誉教授の故大藤正雄先生のご指導の下、内科医としてのキャリアをスタート致しました。その後2年間水戸済生会総合病院にて内科研修を行った後、旧第一内科の腎臓グループに所属し、若新政史先生(千葉大学名誉教授)および上田志朗先生(元千葉大学薬学部教授)のご指導のもと腎臓病学の道に進みました。その後、大学院生となり学内留学として公益社団法人 医療系大学間共用試験実施評価機構の副理事長を長らくお務めになられました福田康一郎先生(千葉大学名誉教授)の主催される千葉大学医学部第二生理学教室(現自律機能生理学)にお世話になりました。当時第二生理に助教授としておられた河原克雅先生(北里大学名誉教授)の下で腎生理学を学び、河原先生が北里大学に異動されるのに伴い、北里大学へ助手として赴任致しました。北里大学では腎尿細管のK+チャネル・トランスポーターをテーマとし、動物実験および分子生物学的実験を行いました。平成11年より仏政府給費留学生として、フランス・ニースにありますCNRS分子細胞薬理学研究所の元所長Michel Ladzunski教授の元に留学し、酸感受性イオンチャネルASICsを対象とした新規疼痛治療薬開発プロジェクトに参加しました。そこで当時Proteomics解析の走りであった酵母Two-hybrid実験を学び、同法を用いてASIC3の細胞内結合タンパク質CIPPの同定(Anzai et al., J Biol Chem, 2002)に成功し、イオンチャネル結合タンパク質のタンパク質間相互作用を標的とする新規創薬の可能性を見出しました。
このフランス留学時の経験から、純粋に「からだのしくみ」の解明を目指すある種哲学的とも言える生理学の研究から、自身の研究の発端?とも言える臨床医学への貢献の可能性に近い「薬理学」という研究に関心が移り、たまたま私の仕事が当時杏林大学医学部薬理学教室の主任教授でおられた遠藤仁先生の目に止まりお誘いを頂きましたため、留学後に臨床医に戻る決断を覆して平成13年より遠藤先生、そしてその後金井先生へと継承されました腎薬理学研究のメッカとも言える杏林大学医学部薬理学教室にお世話になることになりました。
杏林大学では当初フランス留学に培った酵母Two-hybrid実験を用いて腎尿細管の薬物およびアミノ酸トランスポーターの細胞内結合タンパク質の同定をメインテーマとした研究を展開し、前回の受賞につながる「ヒト腎臓尿酸トランスポーターURAT1のPDZタンパク質による輸送機能制御」と題する論文を発表することが出来ました(Anzai et al., J Biol Chem, 2004)。
同研究はその後、腎尿細管管腔側の有機酸/尿酸トランスポーターOAT4とPDZタンパク質の結合、ペプチドトランスポーターPEPT2とPDZK1の結合という3部作として実を結ぶことになりました。
しかし同時にポストゲノム時代を迎えていた当時、ある意味時代の要請として多くの機能未知(オーファン)遺伝子が多数同定されたことを受け、遠藤・金井両先生のご指導の下、主としてアフリカツメガエル卵母細胞発現系を用いたオーファントランスポーターの基質同定のプロジェクトにも参画することとなりました。
私が主体的な役割を果たしてものとしましては、ラットOat5, ヒトOAT7, ラットOat8, マウスOat9がありますが、特に尿酸を輸送するものとしましては、2008年の腎尿細管血管側に発現する電位駆動性尿酸トランスポーターURATv1 (GLUT9)(Anzai et al, J Biol Chem, 2008)、と2010年の腎尿細管管腔側に発現する電位駆動性有機酸トランスポーターOATv1 (NPT4)(Jutabha, Anzai et al, J Biol Chem, 2010)があげられます。前者はURAT1が管腔側から取り込んだ尿酸の血管側への出口として、後者は利尿薬など薬物の尿細管への排出を担うと同時に、血管側のURATv1の取り込みのキャパを超えた尿酸の管腔中へのリーク経路として働く可能性を示唆し、腎臓における尿酸のハンドリングがURAT1を含む3つの因子で説明可能であるとする「3−ファクターモデル」の提唱につながりました。
以上の一連の研究を今回「尿酸を輸送基質とする腎尿細管トランスポーター分子同定」として応募させて頂きましたところ、平成28年度田辺三菱賞受賞という栄誉に至りました。これもひとえにトランスポーター研究の機会を与えて下さいました杏林大学名誉教授の遠藤 仁先生、そして研究を支えて頂きました当時杏林大学医学部薬理学教室教授でおられた金井好克先生(現大阪大学大学院教授)を初めとした、杏林大学、その後約5年間勤務しました獨協医科大学、さらには現職であります千葉大学の薬理学教室に所属された共に働いた数多くのメンバー、さらには共同研究を快くお引き受けを頂きました多くの学外の先生方も含め、極めて多くの皆様のお力のお陰と、深く感謝致しております。
昨年平成28年1月より母校千葉大学に戻ることになり、既に1年半が経とうとしております。この4月からは医学図書館長を拝命するなど、益々研究のしずらい状況になってきてはおりますが、研究者としての本分を常に忘れずに、今後も引き続き尿酸研究の発展に努めたいと存じます。今後ともよろしくご指導ご鞭撻のこと、心よりお願い申し上げます。
千葉大学大学院医学研究院・薬理学 教授 安西 尚彦