香乱記〈1〉〜〈4〉 (154)

【著者】
宮城谷 昌光 (著)

【出版社】
新潮文庫

【内容】
〈1〉悪逆苛烈な始皇帝の圧政下、天下第一の人相見である許負は、斉王の末裔、田氏三兄弟を観て、いずれも王となると予言。末弟の田横には、七星を捜しあてよという言葉を残す。秦の中央集権下では、王は存在しえない。始皇帝の身に何かが起こるのか。田横は、県令と郡監の罠を逃れ、始皇帝の太子・扶蘇より厚遇を得るのだが……。楚漢戦争を新たな視点で描く歴史巨編、疾風怒濤の第一巻。
〈2〉始皇帝は没した。宦官・趙高の奸策により公子扶蘇は自害。皇帝として末子胡亥が即位した。胡亥・趙高により苛政はより激しさを増した。九百の雑役夫を率いて辺境の守備に向かっていた陳勝と呉広が、悪天候による移動の遅れから、「遅参も死、逃散も死、どうせ死ぬのならば」と、蜂起した。反乱軍は瞬く間に万を超え、ついに戦乱の火ぶたは切られた。群雄湧き起つ、烽火燎原の第二巻。
〈3〉秦の不敗の将軍、章邯に包囲された絶体絶命の魏王を救うべく、田たん率いる斉軍は、臨済へと向かった。秦軍は二十万、迎え撃つ魏斉連合軍は十万。田たんは、章邯の自在な用兵、精緻な機略の前に苦戦を強いられる。田横は義を以て楚に援兵を乞い、楚の勇将項梁は、項羽・劉邦・黥布らを率いて、章邯の大軍と激突する。楚漢戦争前夜、帝国秦の終焉を圧倒的迫力で描く、驚天動地の第三巻。
〈4〉無辜の民をも殲滅する残虐無比の項羽と、陰謀と変節の梟雄劉邦。中国の人口を半減させたといわれる楚漢戦争が勃発した。緒戦こそ劉邦は項羽に敗れたものの、劉邦の壮大な包囲網に項羽は追いつめられていく。人民にその高潔英邁を尊崇された不撓の人、田横の正義さえも、漢軍の奔流に呑まれていく。著者をして「理想像」と言わしめた不屈の英雄を描く傑作、明鏡止水の第四巻、完結編。

【一言書評】
秦の始皇帝没後の動乱中国で覇を争う項羽と劉邦の話は、司馬 遼太郎 氏の同名の小説が有名ですが、この楚漢戦争時代に第三極として斉を再建した田氏三兄弟、特にこの物語の主人公で、知、仁、勇兼ね備え廉潔な人柄の田横は、無辜の民をも殲滅する残虐無比の項羽と、陰謀と変節の梟雄劉邦という二陣営の間にあって、殺戮者と偽善者ばかりが勝利者となる時代に希望をもたらしうる英雄であり、三国志の時代の諸葛孔明の出師の表にも描かれているという田横の最期は実に田横らしい見事な最期であるものの、その正義の田横ですら、歴史の奔流に呑まれていく姿に、古代中国の歴史の中に綺羅星の如く現れた英傑の時代の終焉を感じてしまいました。

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