日本生理学雑誌に掲載!

日本生理学雑誌 第79巻4号November 2017に、私の執筆した記事が掲載されました。相変わらず勢いで書いて見直ししていない雑なもので、読み返すと恥ずかしくなりますが、この異能塾のブログを書くように原稿を書いてはいけないですね、、、反省

Education

教育への思いを言葉に、そして行動に!

C大学医学部薬理学のAと申します。今年3月に浜松で開催されました生理学会大会初日のシンポジウム「生理学教育から薬理学への医学教育キャリーオーバー:何をどこまで教えれば良いのか?」のオーガナイズをさせて頂き、また2日目には教育講演「近位尿細管上皮輸送:有機物質の再吸収と分泌」をさせて頂きました。初日のシンポジウムでご発表を頂きました、本学会教育委員長のG大学K教授からご打診を頂き、今回未熟者ながら本稿に執筆させて頂くこととなりました。

昨今医学部教育の大きな流れの一つに臨床実習72週確保という課題があげられるかと存じます。また、昨年1月、それまで所属したD医科大学から異動して参りました私の現所属C大学で特に感じることは「アクティブラーニング」の推進による所謂「座学」と呼ばれる旧来式の大人数での講義コマ数の縮小圧力であります。これらの状況を踏まえ、平成27年度は90分講義50コマあった「薬理学」講義を平成28年度には46コマに縮小し、さらに今年度からは30コマに減らす決断を致しました。

このような学内での流れの中で講義数削減を行ったことを機会に、これまでの薬理学講義の講義項目(具体的には薬物数)の見直しを行うと同時に、各講義の流れである「解剖(組織)学と生理学の復習→薬物の薬理作用と副作用の解説→薬物治療の適応疾患の概説(時には病理学)と薬物の適用」を今後も維持するのは困難ではないか、という思いに至りました。特に薬理学は所謂”-ology”ベースの考え方が基本であり、「薬物とその受容体(生体)の相互作用の視点から薬理作用を考える」という統一したコンセプトの下で薬について学んでもらうことに集約することを目指すべきだという思いを持ちました。その際に必要なことは土台となる解剖・生理学での薬物薬理作用(及び副作用)につながる視点での講義を依頼することで、薬理学がほぼ毎回行ってきた解剖生理学の復習的部分をカットすることであり、また薬物治療の対象となる疾患の説明部分を病理学及び(主に)内科診断学に依頼することであります。後半の部分は基礎と臨床の枠を超えることになるため、同じ基礎の中という意味えまず先に改善可能ではないかと考えたのが解剖・生理学であり、私自身が生理学会・薬理学会の両学会員(評議員)でもあることから、こういう思いを同じような状況にある先生方と話あう機会を頂きたいということで、今年3月の教育シンポジウム提案につながったという次第であります。

シンポジウムの成果を現時点で評価することには無理があるとは思いますが、主催者としての自己評価としては、具体的な提案に踏み込めなかったことはまだまだ不十分であったものの、こういうテーマを話あうきっかけを作り、またそれぞれの学会で誰を窓口にして行けば良いか、人の「繋がり」ができたことは十分な成果となったのではないかと思います。

そんな中、今年4月より現職におきまして「学部教育委員」「学務・学生生活部会委員」「全学普遍教育(所謂教養)運営委員」「基礎カリキュラム委員会オブザーバー」さらには「カリキュラム統合ワーキンググループ委員」などを軒並み?拝命することとなりました。3月のシンポジウムではまだまだアイデア?の段階であったものを実際に現職にて携わる機会を頂きましたので、次に同様の企画が学会でなされるような際には、これから行う学内での取り組みと進捗状況についてのご報告をさせて頂けるかと思います。

ただ、C大学でもカリキュラム統合の試みが全くなされていなかった訳ではないことがわかりました。ちょうど2000年を過ぎた頃、恐らく全国的に統合が進められた際にC大でも同じような試みを行ったものの、各科の先生方の講義がオムニバス的に揃ったものの、講師間での内容に関する意見交換などがなく、ある講義は専門的過ぎ、またある講義は市民公開講座的な内容で、統一感がなく、学生さんからも不評であり、結局その点を改善する講師内での意欲や思いが無かったため、結局失敗に終わった、すなわち”-ology”ベースで今後も進める、ということに終わったと年配の先生から伺いました。しかし現在JACKMEのトライアルが正規に認定を埋めることになった我が大学への課題として与えられたものの一つが「カリキュラム水平統合・垂直統合が弱い」という指摘でありました。

さらに上記の委員に就任したことをきっかけに知ったこととして、教養から学部基礎医学教育とのキャリーオーバーがあります。9学部を有する全国有数の国立大学として本学では医学部初年次教育を国際教養学部という所謂全学の教養部に依頼する決まりがあり、教養から基礎医学へのキャリーオーバーをどのように進めて行くのか?、という古くからの課題をそろそろ解決しないといけない時期に来ていると感じました。同じくJACKMEによる認定の際の別の課題が「教養教育と学部教育の連携の低さ」でありました。

様々な委員会を掛け持ちさせて頂く中で、だんだんとまとまりつつあるのは、「我が大学としてどういう医師を社会に送り出したいのか、そのゴールを明確にすることで、普遍教育を含めた学部6年間での医学教育をどう進めて行くのか、それを少しずつでも毎回議論することで『医学部としての方針』を明確化することが、今後のカリキュラムの水平・垂直統合を進める際にも、普遍基礎医学統合を進める際にも必要なのではないか」という思いです。

どうしても大学の基盤経費の削減を受け、教室のスタッフ数は減り、若い人が狙えるポストも減少する中、ポストを得るための競争は激化しているにもかかわらず、教育のdutyは減ることはなく、また学内の様々なことに関する委員会の数が増え、それをシェアする必要から益々研究時間が削られています。そんな中、教育にかける時間を減らさなければ自分の未来に関わる業績を生み出す研究時間を捻出出来ない状況が地方国立大学を中心に広がっており、そんな中では勢い医学教育を医学教育学教室の先生方に丸投げする状態になりがちなのではないかと思います。しかし色々な意味で時間がないだからこそ、医学教育は医学部に所属する全教員で担うべきものであるという大学本来の役割に立ち返り、それぞれがそれぞれの立場で考える医師像、そして教育のあり方を、時間がないからこそ今皆で考え合い、研究だけではない教育の「戦略」をそれぞれの大学がそれぞれの状況に応じて作り出してゆく、こんなインターネットにしてもSNSにしても、電脳ツールが発達した現代だからこそ、泥臭い、人の顔が見え、気心がしれる「人間同士の信頼関係」の構築による思いの共有を図ることが遠回りなようで着実なことのように思います。

そんな中、委員会でご一緒する組織学そして病理学の教授の先生方とお話をしていて、実験的に今年は薬理学の「消化器治療薬」のコマを利用して、「組織ー病理ー薬理リレー講義」の試みを行うことに致しました。今まで薬理学で、解剖の話、病気の話をした後、薬理作用の話をしていたものを、それぞれの専門の先生にお話を頂いて、薬理につながる組織学とは何か、薬理学と連携するには病理学をどう教えるか、そして削減されるコマ数を受けて、薬理学は組織や病理の教育内容を受けてどう”-ology”をベースにした教育をどう進めてゆくのか、をそれぞれが考える機会にし、学生さんの反応・意見も聞いてみたい、そんな試みを行う予定です。こんなアイデアも人が集まり話をする機会があって生まれてきたと言えるかと思います。

最後にですが、教育こそが国の基幹であり、「人こそが未来」ですので、各大学、及び各学部をリードする立場にある方々にはそれをご理解頂き、あるいはそういう思いを持つ方に指導的な立場に立って頂くことで、常により良い医師・医療人の育成を目指す教育を担って行きたい、私自身は単なる一地方国立大学の教員に過ぎませんが、医学教育に携わる一人一人がその役割を認識することで、日本を支えてゆく、そんな思いを共有できれば嬉しいな、とそんなメッセージを記載してこの稿を終わりにさせて頂きたいと思います。

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