2週間前の7月11日、私が所属する日本薬理学会国際対応委員会のZOOMによる第1回会議が行われました。2016年、飯野前委員長の発案により発足した本委員会は、2020年、金井新委員長を迎えて、次の4年が始まりました。
国際対応委員会の基本姿勢(Mission Statement)は2017年に以下のように定められております。
「国際対応委員会は、日本薬理学会(JPS)が国際薬理学連合(IUPHAR)および国外の薬理学会との連携・協力を行うための方策を企画立案することにより、本会が薬理学の進歩に主導的な役割を担って貢献することを目的とする。」
“The International Relationship Committee will prepare plans and proposals for The Japanese Pharmacological Society (The Society) to promote cooperation and collaborations with IUPHAR and other pharmacological societies in the world so that The Society will play a leading role to contribute to the advancement of pharmacology.”
この方針のもと、それまでバラバラに行われていた日本薬理学会の国際交流は本委員会を司令塔として統合的に実施されるようになり、2019年には日韓薬理学合同セミナーが復活し、日中薬理学・臨床薬理学ジョイントミーティングも実施されました。
その4年間を受けて、新体制となった委員会の会合が7月11日に行われましたが、その中で委員長より報告された”IUPHAR Governance Review 2019-2020″(国際薬理学会連合ガバナンスレビュー2019-2020)は、私にとって衝撃的でありました。
このガバナンスレビューの1セクション”The World Congress is popular, but IUPHAR’s selection process is poor”(World Congressは評判が良いが、IUPHARの選考プロセスは貧弱である)、という項目の中の最後にある一文に驚きを感じました。
“Kyoto 2018 had been very disappointing in terms of diversity: not just gender balance but age too.”
「WCP2018 Kyotoは、ダイバーシティの面で非常に失望した性別バランスだけでなく、に年齢ついても」
財政的に成功した、と学会員には受け止められていると感じていたWCP2018 Kyotoがこのように批判的コメントが出ていることに正直驚きを感じました。さらに
ガバナンスレビューはさらに以下のような一つのセクションを設けています。
“Equality, Diversity and Inclusion is not yet taken seriously enough”
「平等、多様性、包含(エクスクルージョン/exclusion「排除、隔離」の逆)はまだ真剣に受け止められていない」
冷静に判断しますと、これはWCP2018 Kyotoだけを批判しているのではなく、どうやら国際薬理学連合(IUPHAR)自体がそういう体制であることを指摘しているのだとわかります。
そこで、IUPHARの本気度はどこまでなのか、をさらに感じることになるのが、2022年にイギリスのグラスゴーで開催されるWCP2022での
“Symposium, Workshop and Debate Guidelines”
(シンポジウム、ワークショップ、ディベートガイドライン)
に示されています。
“Selecting speakers/participants”の項目には
“The WCP2022 International Scientific Committee is mindful of its responsibilities to promote equality of opportunity and asks submitters to adopt the Society’s principles in Equality, Diversity and Inclusion (EDI) when considering symposium/workshop/debate participants.”
「WCP2022国際科学委員会は機会の平等を促進する責任を認識しており、シンポジウム/ワークショップ/ディベートの参加者を検討する際には、申請者に平等、多様性、包含(EDI)における学会の原則を採用するよう求めます。」
“As part of the application process, we will ask you to outline how you have considered EDI in creating your proposal. Please read the Society’s EDI statement for more information.”
「申請プロセスの一環として、提案を作成する際にEDIをどのように検討したかを概説するように求められます。 詳細については、協会のEDI声明をお読みください。」
“WCP2022 International Scientific Committee aspires to achieve a 60:40 gender balance across all submissions including both the chairs and speakers. We ask applicants to consider whether a single gender is over-represented (i.e. >67%) when preparing their programme submissions. In such instances, please justify clearly why this is the case and what efforts were made to achieve gender balance.”
「WCP2022国際科学委員会は、議長と講演者の両方を含むすべての提出にわたって60:40のジェンダーバランスを達成することを目指しています。 プログラムの提出を準備する際に、単一の性別が過剰に表現されているかどうか(つまり、67%以上)を検討するよう申請者に求めます。 そのような場合は、なぜそうなのか、そしてジェンダーバランスを達成するためにどのような努力がなされたかを明確に正当化してください。」
そこでBPS(The British Pharmacological Society 英国薬理学会)のEquality and diversity statement(平等と多様性に関する声明)を確認してみます。
“The British Pharmacological Society (BPS) is mindful of its responsibilities to promote equality of opportunity and to avoid discrimination at all times and will incorporate best practice into all the Society does.”
「英国薬理学会(BPS)は、機会の平等を促進し、常に差別を回避する責任を認識しており、協会が行うすべてのことを実践する。」
“Guiding principles and outcomes”(指針と結果)
“BPS will make every effort to increase diversity within BPS leadership and governance structures, its membership, and its professional development activities”
「BPSは、BPSのリーダーシップとガバナンス構造、そのメンバーシップ、および専門能力開発活動における多様性を高めるためにあらゆる努力をします。」
“Throughout all of its charitable objectives BPS will articulate gender and ethnic
diversity as a core value and highlight its importance to pharmacology at every level”
「BPSはすべての慈善目的を通じて、性別と民族の多様性をコアバリューとして明確にし、あらゆるレベルで薬理学に対するその重要性を強調します」
“BPS management and participation in BPS initiatives should reflect the gender and ethnic diversity breakdown of BPS membership”
「BPSの管理とBPSイニシアチブへの参加は、BPSメンバーシップの性別と民族の多様性の内訳を反映する必要があります」
“Increased opportunities for and support of professional development for women and minorities ”
「女性とマイノリティのための専門能力開発の機会とサポートの増加」
“BPS commitment”(BPSコミットメント)
“To ensure that no person applying for a job, or contractual work, or other form of relationship with the Society is treated less favourably than another because of their race, age, colour, ethnic origin, religion, sex, disability, sexual orientation, or length or type of contract (e.g. part-time or fixed-term)”
「人種、年齢、肌の色、民族的起源、宗教、性別、障害、性的指向、または性的指向のために、仕事、契約上の仕事、または他の形態の協会との関係を申請する人が他の人よりも不利に扱われないようにします。 契約の長さまたはタイプ(パートタイムまたは定期など)」
“To achieve a minimum of 30% female representation across BPS management
committees and activities by 2016 (in line with BPS five-year strategy).
Organizers of meetings and symposia supported by BPS must aim to meet these commitments. Where it is not possible to do so, organisers will be required to provide a brief justification indicating why it was not possible before the symposium can be considered”
「2016年までにBPS管理委員会と活動全体で最低30%の女性代表を達成する(BPS 5年間の戦略に沿った)。BPSがサポートする会議やシンポジウムの主催者は、これらのコミットメントを満たすことを目指す必要があります。 それが不可能な場合、主催者は、シンポジウムを検討する前に、なぜそれが不可能であったのかを示す簡単な理由を提供する必要があります」
“To work towards management committee representation that reflects the gender and ethnic composition of BPS membership”
「BPSメンバーシップの性別および民族構成を反映する管理委員会の代表に向けて取り組む」
“To provide guidance and training to staff and members on equal opportunities
issues”
「機会均等の問題についてスタッフとメンバーにガイダンスとトレーニングを提供する」
“To make members, staff and clients fully aware of our position and to make our
policy available for inspection”
「メンバー、スタッフ、クライアントに私たちの立場を十分に認識させ、ポリシーを調査に利用できるようにするため」
“To challenge all forms of discrimination and harassment where they occur and
promote and foster an environment which makes this possible”
「あらゆる形態の差別とハラスメントが発生した場合に異議を唱え、これを可能にする環境を促進および育成する」
“To review this policy and its commitments on an on-going basis to ensure its
effectiveness within the organization”
「このポリシーとそのコミットメントを継続的に見直して、組織内での効果を確認する」
“To regularly review practices and policies to ensure that discrimination does not exist”
「慣行とポリシーを定期的に見直し、差別が存在しないことを確認する」
“To remind Voting Members of the Society’s need for equality and diversity
amongst the Trustees in terms of: subject knowledge and balance; geographical and subject distribution; gender, ethnic and age balance; balance of academic, industrial and other relevant experience; knowledge of and involvement in national and international pharmacology”
「理事会の間の平等と多様性に対する協会の必要性を投票会員に思い出させるために、次の点について。 地理的および主題の分布; 性別、民族、年齢のバランス。 学術的、産業的およびその他の関連する経験のバランス; 国内および国際的な薬理学に関する知識と関与」
これだけのことを薬理学会が表明しているのが、いわゆる「グローバルスタンダード」なのでしょうね。上記のことに配慮した公募シンポジウム提案でないと受理されない、ということは、今の日本薬理学会会員の方々には(特に私には!、汗)大きな衝撃?として映るような気がします。
台頭する中国との関係をどうするか、世界の中で我が国だけが減少を示している論文数から日本のグローバルステータスをどう維持して行くのか、に加えて、世界で進行している、このダイバーシティの課題も、ある意味日本薬理学会国際対応委員会が会員の皆様に伝えて行くべき、重要な事項なのではないかと感じております。
一体ここまで(日本人的には)厳しい?条件で、シンポジウム公募をやっている学会、あるのでしょうかね? 異能塾読者の皆さんで、ご存知でしたら、そういう先進的試み(世界的に見れば後進的、汗)をしておられる学協会の皆様、ぜひお知恵を拝借させて頂きたいと思います。