2022.8.3(水)
昨年9月、日本薬理学会関係者に大きな衝撃が走りました。
当時北大教授でおられた元日本薬理学会理事長 吉岡充弘先生の突然の訃報でした。
現役の薬理学教授がご逝去されたには止まらない、大きな柱が突然無くなった、というようなものでした。
その後、不肖私に「吉岡充弘教授 追悼業績集」への寄稿依頼を頂き、昨年の12月5日に返送させて頂きました。
その「吉岡充弘教授 追悼業績集」が昨日届きました。
北大関係者の先生方の追悼文が終わり、学外者の追悼文が19頁から始まる中、元日本薬理学会理事長の赤池先生の次に(あいうえお順とはいえ)私が登場してしまうのがいささか気が引けるものになっておりますが、勝手ながら私の追悼文をご紹介させて頂きます。
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吉岡充弘先生との思い出:第7回中日薬理学・臨床薬理学ジョイントミーティング
日本薬理学会の一会員として、北海道大学大学院医学研究院 教授の吉岡充弘先生のお名前は当然存じておりましたが、研究領域と所属部会(吉岡先生は北部会で私は関東部会)という違いもあり、それまではそれほどのご縁もなくおりましたが、直接お話をさせて頂くようになりましたのは、私が日本薬理学会理事に就任した2018年からでした。
理事会でご一緒した、とは申しましても、年に3回程度、参加者が20人以上の理事会ではそれほどお話をする機会はなく過ごしておりましたので、吉岡先生と密?に接する機会となりましたのが、2019年8月に中国雲南省昆明で開催されました第7回中日薬理学・臨床薬理学ジョイントミーティングでした。
私と吉岡先生は2016年から始まった日本薬理学会国際対応委員会でご一緒もしておりましたが、私が「他に人がいないから」という理由で国際対応委員を代表して2016年12月に米子で開催された第6回日中薬理学・臨床薬理学ジョイントミーティングに参加したことで、京都でのWCP2018を挟んで1年先送りになり、2019年に開催される第7回中日薬理学・臨床薬理学ジョイントミーティングの日本側代表となりました。その準備をさせて頂く中で、当時日本薬理学会理事長でおられた吉岡先生に、お忙しい中、昆明までお越し頂くこととなった次第です。
昆明で1番のホテルの宴会場には大型のデジタルスクリーンが用意されており、地元共産党の幹部の方がお越し頂いているなど、単なる基礎医学の学会同士の交流行事とは言え、この会に対する中国サイドの並並ならぬ思いと力の入れ様を感じるものがありました。
そんな状況下で、日本側代表として開会挨拶に立たれた吉岡先生のお姿はそれは堂々としたものであり、大変流暢な中国語で「你好(ニーハオ)」と参加者に話しかけられ、会場が一気に湧いた様子を見て、その気配りと申しますか、卒の無さにさすがは吉岡先生と感心しきりでありました。
この最初のご挨拶で出来上がった友好的な雰囲気のまま、研究発表へと移りました。日本側そして中国側からそれぞれの発表に対し、会場から積極的な質疑応答がなされましたが、吉岡先生も自らマイクの前に立たれ質問をして会を盛り上げておられました。
国際交流で大事なのは、昼間の研究発表とともに夜の食事会であると言えます。
ここでも吉岡先生は、中国の先生方へご自身で購入されたお土産をお渡しになり、心遣いをなされるとともに、中国薬理学会前理事長と現理事長お二人の間にお座りになり、左右からのお酒のリクエストを断らずに受けておられ、大変お付き合いの良いところをお見せでした。
とは言え、宴もたけなわの状態になりますと、私がたまたま近くを通りましたところ、「あ〜、安西先生、もうダメだよ、助けてくれ〜!」とのことで、私がしばし吉岡先生に代わり杯を頂きましたが、酒に強くない私も1−2杯でもうグロッキーになり、再び吉岡先生にお戻り頂かねばならず、全くお役に立てず申し訳ない有様でした。
今思えば、その頃からお体の調子はよろしくなかったかもしれないのですが、それを微塵も見せずに返盃にお付き合いされた吉岡先生の責任感の強さに今更ながら感じ入る次第であります。
この昆明での盛会ぶりを耳にした、第93回日本薬理学会年会長の五嶋先生が、翌年2020年3月には日中薬理学セッションを企画されるなど、吉岡先生が薬理学会理事長として進められた国際交流(特に日中交流)には大きな貢献がございました。この2020年3月に予定された日中セッションは年会自体がコロナ禍により誌上発表となったため実際の開催はございませんでしたが、翌年2021年3月にはまさに吉岡先生が年会長をお務めになられた札幌での第94回年会で、オンラインではありましたが、第8回日中薬理学・臨床薬理学ジョイントミーティングを開催頂けましたことは、昆明での第7回における吉岡先生のご活躍あってのことと大変有難く存じます。
その後2021年6月25日にオンラインで開催されました、第23回韓日薬理学合同セミナーでも、吉岡先生にはオンライン参加とセッションの座長をご担当頂き、こちらの会もオンラインながら大変盛り上がり、吉岡先生が国際交流にはなくてならない存在であることを再認識した次第でした。が、まさにその数ヶ月後に吉岡先生の訃報を耳にすることになるとは露も思わず、驚くと同時に大変残念でなりません。
吉岡先生とともにお仕事をさせて頂いた期間は短いものでございましたが、その短い間であっても以上のような多大なる御貢献をされましたことに、感謝の気持ちで一杯であります。
心よりご冥福をお祈り致します。
日本薬理学会理事・国際対応委員
千葉大学大学院医学研究院薬理学 教授
安西 尚彦