【JPS96】日本の科学技術・医療 (満屋先生の編集後記 から)

いよいよ年末の横浜薬理年会まであと1っヶ月となりました。

第96回日本薬理学会年会で実施されますPYJ2022企画基調講演の演者は、NIH/NCGMの満屋裕明先生であることは既にお伝えしました。

【JPS96】PYJ2022企画 満屋裕明先生による基調講演(12/1)フライヤー紹介

また、NIH時代からの満屋先生の盟友でおられ、この度強いご推薦を頂き山梨大学長の島田眞路先生に年会長特別講演を頂きます。

【JPS96】山梨大学学長 島田眞路先生による年会長特別企画講演(12/1)実施決定!

この度、プレコングレス情報として、満屋先生がご執筆された雑誌「HIV感染症とAIDSの治療」の編集後記をお送り頂きました。

満屋先生の基調講演、島田先生の年会長特別企画講演の予習編?として、ご紹介をさせて頂きます。

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編集後記

この数年、外部からの取材・インタビューは全て断わって来たが、考えるところがあって、先日「日本の科学技術・医療について」ということで読売新聞のインタビューを受け、その記事は「解説」として掲載された(2022年10月21 日朝刊)。『ワクチン出遅れ 開発力の低さ』、『投資見送り 研究者育たず』、『科学技術立国へ 覚悟必要』の見出しだ。さすが、大手の新聞だ。見出しの付け方が端的で良い。

それはともかく、COVID-19ワクチン開発では米英中露が先行、ワクチンを外交・軍事物資・重大事項として扱い、研究開発に逸早く国家予算を投じた。米国ではトランプ大統領が『ワープスピード作戦 Operation Warp Speed 』を指示、2020年3月には約1兆円を拠出した。同じ頃、安倍晋三内閣はワクチンの研究開発費を補正予算に計上したが、その額はAMEDを通して約100億円。米国のそれの100分の1。しかも実際に日本で研究が開始されたのは2020年7月頃だ。既に米国等では第二相の臨床試験が始まっており、その結果は年末には臨床系国際誌に報告され(NEJM 2020年12月)、米国等で直ちに高齢者などへの接種が開始された。新しい技術としてのmRNAワクチンの総説が2014年に既に報告されていたが (Sahin, Kariko et al. Nature Reviews Drug Discovery 13: 765, 2014), 本邦の貧相度を増してきている研究環境では到底そうした新技術に追いつくことができず、「前世紀」の「伝統的」な不活化ワクチンに止まって、当然とはいえ、欧米の技術に大敗した。

コロナ禍前、2018年の医薬品貿易収支は2兆3千億円であったが、COVID-19ワクチンの「輸入代金」は更に1兆5千億円の上増しとなって2022年には総計4兆円を超えるという。日本の1年の国家予算が約100兆円(2022年度は過去最大の107.6兆円)であるから、亡国とも言いたくなる恐るべき額だ。20年前、私が熊本で治験支援センター長を務めていたとき、医薬品貿易赤字が2,200億円余であることに、AIDSの治療薬開発に身を投じて来ていたこともあって、筆者はとんでも無い危機感を覚えたのを記憶しているが、目と耳を塞ぎたくなるこの4兆円という赤字額を考えると、このままでは日本の前途はないとしか結論できない。

日本の我々は本物の「茹でガエル」だ。日本の科学技術が急速に昔日の光を失いつつあっても安穏としていて、危機感に欠け、我々は「じわじわと茹でられ、熱湯になるまで気付かず、飛び出しもしないでやがて茹で上がって死んでしまう」情けない蛙だ。

「今回のCOVID-19ワクチン・治療薬開発に於ける完敗が、日本の現状そのものであることを自覚する機会となって、それをバネにして長期的な戦略をもって人を育て、研究を活性化し、日本の科学技術復活の糸口になることを願う」と、インタビュアーであった読売新聞 本間雅江 医療部長が同紙面でまとめられたが、我々が「熱湯になる前に飛び出せるか」、最早猶予はない。
(満屋 裕明)

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