2021.9.4(土)
この日は朝から第22回応用薬理シンポジウムに参加しておりました。
応用薬理シンポジウムは、1967年に設立された応用薬理研究会が主催する年に1度の学術集会です。この応用薬理研究会は、その社会的使命としてここに記載があります。
また、東北大学名誉教授で同会理事長の大泉 康先生が書かれた「応用薬理研究会設立 50 周年を迎えて これまでの歴史と将来の展望」の中で、「当時製薬企業が厚生省(現厚生労働省)に新薬を申請し,製造許可の承認を得るには,その薬理関連論文が学術誌に掲載されていることが必要 でした .そこで「応用薬理」がその「受け皿」としても大きな役割を果たしました.」とあり、設立が時代の要請にあっていたもののようです。
私が応用薬理シンポジウムに最初に参加したのは平成21年9月に当時静岡県大教授でおられた山田静雄先生が開催された第11回が最初で、次が山梨大の小泉先生が開催されて第14回、
そして今回の第22回で3回目となります。応用薬理研究会は日本薬学会と薬理学会でも薬学系の先生方がメインの会、という印象をなんとなく持っておりましたので、これまでご縁は薄い方でしたが、今年の5月18日、午後の学内行事で自室にいた際に取った電話が今回の第22回大会長の日大薬学部の石毛先生からで、同会の中で下総薬理学研究会のメンバーでアフターコロナのシンポジウムを組んで欲しい、という依頼でした。
その結果生まれたのが、「シンポジウム1:下総国発! アフターコロナの応用薬理研究を考える」でした。
下総薬理学研究会は何度かこの異能塾でも取り上げておりますが、千葉県に集まる5大学7学部の薬理学教室が一堂に会する研究会です。関東広しと言えども、大学が過度に集中する東京都を除けば、これだけ集まっている県は千葉県以外にはありません!
地図で見ましても、見事に東葛地区と京葉地区という千葉西部に集中しており(城西国際大さん、すみません)まさに下総国に集中しておりましたので、我々の研究会は「下総薬理学研究会」となった次第です。
そんな流れでお引き受けした第22回応用薬理シンポジウム、会員でも無いのにオーガナイザー&座長を務め、さらにはシンポジストまでやらせて頂き、なんと懐の広い会なんだと感激でした。
自分の発表の中では、第96回年会/JPW2022の「番宣」までやらせて頂きました(笑)、調子に乗ってすみません。
実は下総薬理学研究会は毎年1月に幹事会という名の飲み会をやっており、残念ながら今年はコロナで中止でしたが、お互い気心の知れた中、ということで、今回のシンポジウム1でも座長&演者が(応用薬理というアウェーにも関わらず、汗)非常にリラックスしていつも通りの感じで進んだ気がします。聞いている方も肩肘張らずにいられたのではないかな、なんて勝手に思っております。
で、今回のこの応用薬理シンポジウムを、私が薬理学教室として担当している「スカラーシッププログラム」の対象学会にしておいたところ、医学部3年生が参加してくれて、すぐにレポートを送ってくれました。私がここでシンポジウムの概略を記載するよりも、簡潔でとてもわかりやすいので(これは評価「秀」ですね、私的に、笑)、Yさんのものを勝手に紹介させて頂きます。
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<田中光先生>
心筋拡張型心不全のターゲットとしてNCXとSERCAを定めたところSERCAが弛緩速度の促進に関与することがわかったのでSERCAを活性化させる薬物を研究した。またその中の治療薬としてGingerolやQuercetinといった自然の食物由来のものがあるという紹介をした。
3年生の前期の薬理学でやった受容体の話が出ていて内容は大まかにわかりました。その中で田中先生の遮断薬を適宜用いることによりNCXとSERCAがどのように心筋弛緩速度に関わっているのかを調べた方法は初めてのものだったのですごく興味深かったです。
<堀江俊治先生>
アフターコロナという観点からコロナウイルスにかかった後起こり得る「感染後過敏性腸症候群」のモデル作成を目指した。ただ「感染」を起こさせるのは難しいため「炎症」の後も途中からは「感染」と同じ経路を辿るという視点から「炎症後過敏性腸症候群」モデルマウスの作成を行いTRPV1や肥満細胞の発現などを観察した。
私自身IBSについての知識があまりなかったのでなぜ感染後または炎症後にIBSが起こりやすいのかは予想しづらいところがありました。しかし今回の堀江先生のお話を聞いて感染後または炎症後にマスト細胞が多く発現しそれが痛覚を司るTRPV1に作用することで炎症につながっているというのがよくわかり、また直近で勉強していた免疫学や組織学の知識から話がつながりとても面白かったです。また、アフターコロナへの繋げ方として感染後過敏性腸症候群を選ばれていたことにユニークさを感じました。
<三枝禎先生>
本来は抑制系に働くδ受容体とμ受容体がドーパミン量を増やすのかという疑問についてこの二つの受容体が働くことで側坐核ではGABA受容体が抑制されてしまい、その結果ドーパミンが増えていることを実験的に示した。また各々の受容体に作用することでアセチルコリンの量も減らすことがわかった。
3人の先生と比べて話すのが早くカタカナを理解する前に話が進んだため理解しながら聞くことが難しかったのですが、結論の部分で分かったこととして三枝先生がアゴニストとアンタゴニストを使い分けることでそれぞれの受容体特性を調べ上げたこと。具体的にδ1・δ2・μ1・μ2がそれぞれどの受容体に影響するのかを調べ上げる方法が実験をやったことない私にとっては頭に入れておきたいと感じるものでした。だからこそもう少し理解しながら聴きたかったのでもう一度受容体のあたりを勉強しなおそうと思わされました。
<安西尚彦先生>
アフターコロナという観点から自身の研究の原点回帰について説明した。正常細胞とがん細胞には異なるトランスポーターLAT1とLAT2が発現していてそのLAT1を標的にしたJPH203や阻害や保護をすることで従来のBNCT法を改良したBNCT増感薬の説明をした。
前半の内容は薬理学のスカラーシップに所属して3年目の私にはとても馴染み深い話だったのですが、そこから新しい内容として出てきたBNCT増感薬の話はとても面白かったです。そもそもBNCT法というものを私自身知らなかったため、その仕組みを知ったことで一つ学びがあり、またそのホウ素を標的であるがん細胞に選択的に入れるためにLAT1を使い他の正常細胞を保護するためにLAT2を阻害するという話は私の中で安西先生の研究の応用幅というのがとても広いことを感じさせ、とても興味が惹かれました。
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その後教育講演、2つのシンポジウムに、特別講演と、これまで2日間であったものをオンランということで1日開催に変更して行われた第22回応用薬理シンポジウム、バラエティに富んだ大変興味深いものであったかと思います。
大会長の石毛先生、そしてご関係の皆様、お疲れ様でした。
次回第23回は東北医科薬科大学の古川先生を大会長として来年開催されるようです。